二年ぶりの更新。今回は翻訳。

原文: Contract From Below: Promissory Estoppel and the Reserved List
https://www.mtggoldfish.com/articles/contract-from-below-promissory-estoppel-and-the-reserved-list

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デュアルランドの値段が跳ね上がるたび、再録禁止リストReserved Listの話題がソーシャル・メディアを席巻する。この話題について人々は、Wizardsが再録禁止リストを撤廃することはないだろう、なぜならそれは(約束による)禁反言原則Promissory Estoppel違反のかどでの訴訟を招くからだ、と考えている。しかし、「禁反言原則」とは実際のところ何を意味するのだろうか、それは再録禁止リストに対してどのように適用されるのだろうか。そして、そうした訴訟は実際に可能なのだろうか?

これからの連載ではこれらの疑問に答え、そして可能であれば、人々が再録禁止リストの法的側面について有している様々な誤解を説いていくことを目的としている。しかしその前に、私自身について自己紹介をさせてほしい。読者の内のいくらかは私のことを"Booze Cube"(マジックを飲みゲーにするためのカスタムセット)の作者として知っているだろう。そしてまた、契約法に強い関心を持った弁護士でもある。私はリバイズドの時代からマジックをプレイしており、再録禁止カードの相当なコレクションも所有している。私は構築フォーマット(一番のお気に入りはレガシーで、12 postに夢中だ)をよくプレイするのだが、弁護士、そしてレガシープレイヤーとして、再録禁止リストについてたくさんのことを考えてきた。個人的には、再録禁止リストが撤廃されることが好ましいと考えている。というのも、レガシーは私のお気に入りのフォーマットで、これから先も長らく人々がレガシーを遊んでくれることを望んでいるからである。しかし、今回はWizardsが再録禁止リストを撤廃するか否かは脇に置いておこう。その代わりに、再録禁止リスト上のカードを再び刷ることの法的な状況について考えることにする。

さて、まずは最も簡単な問題から出発するとしよう。「禁反言の原則」とは一体何で、そして何故それによってWizardsが訴訟されるかもしれないのだろうか、という問題だ。
禁反言の原則を理解するためには、まず(英米法上の※訳者補足)契約法の基礎についてある程度理解する必要がある。そもそも、「約束」はそれ自体では法的強制力を有しない。つまり、法廷は「約束」を破ったことについて何らかの罰則を与えることはできない。法的強制力を有するためには、それが「契約」である必要がある。では次に、「契約」とは何だろうか。契約と聞いて思い浮かぶであろうイメージといえば、形式的な文書へのサインや、もしかしたら使用許諾契約書の"I Accept"ボタンなどだろう。しかし、「契約」とされるものの範囲はもっと広く、さほど形式的でもなかったりする。例えばあなたが、例えば車であれ、ペットボトルの水であれ、何かを買うとき、それは一つの契約である。マジックのカードをトレードするとき、それもまた契約である。GPに参加するなら、それもまた契約だ。一体、契約とはなんなのだろうか。

契約とは、法によって義務とみなされ、また不履行の際に救済を与えられることが決められた約束(の束)に過ぎない。契約をするには、三つの核心的な要素が求められる。申し込みOffer、承諾Acceptance、そして約因Considerationだ。これらの要素は約束に法的強制力を与えるための基礎的な理念を表している。その理念とは、同一の取引に対する合意によって契約が生じたこと、そしてその取引によって契約をした相互が何らかの利益を得られるべきことである。一方が何らかの文言で申込み、他方がそれを承諾する。これらはしばしば「意思の合致Meeting of the minds」と呼ばれる。ここで重要なのは、両者がこの契約の文言に法的に拘束されることに同意したということである。

最後の要素、「約因」は互恵Reciprocityに関するもので、取引の中核に当たるものを相互に交換することをさす。マジックでもこれは見受けられる。例えば、私が《Taiga》を《ウルザの後継、カーン/Karn, Scion of Urza》とトレードしたいと申し出て、あなたがそれを承諾したとしよう。私たちは同じ契約内容に同意し、それぞれのカードを交換したことが我々の同意した約因となる。すなわち、我々は契約を形成したのである。約因はまた、約束を互いにかわすことによっても成り立つ。例えば、私のデッキをあなたにトーナメントの間貸与する代わりに、得た賞品のうち25%を私に渡すことを約束したとしよう。ここにおいて再び重要となるのは、我々が互恵的な交換取引をしたということだ。こうした取引は乱暴で一方的なものということもありうる(《Black Lotus》とドラフトで手に入れたコモンを交換するような)。しかし、何であれそこに交換が有る限り、契約を形成するための約因とされる。

再録禁止リストは約束である。しかし、強制力を有した契約ではない。なぜなら、そこには約因が欠けているからだ。Wizardsは何らかの対価として、特定のカードの将来における再印刷の権利を放棄したわけではない。多くの人々はクロニクルが出た後に再録されたカードの価格が下落したことによって困惑した。そしてWizardsはカードのコレクション性への信仰を修復することによって人々がパックを買い続けることを期待して無償で再録禁止の約束をした。それは互恵的なものではなく、プレイヤーがパックをその約束の対価として買うというわけではなかった。そうした相互の交換がない以上、この約束は契約ではない。そして、再録禁止リストは契約でないのだから、法はその不履行に対して何らの救済を与えないであろう。

これが、禁反言の原則が問題となる下地である。

禁反言の原則とは、エクイティ(衡平法)上の原理で、裁判所が約束に、あたかも契約であるかのような強制力を与えるものである。禁反言Estoppelという単語はフランス語の"estoupe"、「口を閉じる」という単語に由来する。本質的に、裁判所は契約当事者の先行する行動に基づいて、一定の主張の組み立てや権利の主張、証拠の提出を妨げる。禁反言にもいくつかの種類がある。例えば、争点効Collateral estoppelでは、以前の事件ですでに決定が下された争点について再び問題とすることが禁止される。法的禁反言Judicial estoppelでは、何らかの法的過程においてある法的地位を主張した当事者が、その後に別の矛盾する地位を主張することが禁じられる。(約束による)禁反言においては、何かの約束をした者が、約因を欠いたが故に契約が存在しないとして抗弁をすることが禁じられる。これによって約束をされた側は、約束への信頼を根拠として、それが契約であったかのように損害賠償を求めることができる。

(約束による)禁反言の原則の厳密な定義は州によって異なる[1]。しかし、基本的にその要素は同じである。(約束による)禁反言を構成するには、いくつかのことを立証する必要がある。

1. 約束が存在すること。2. 約束をした者が、約束されたものが自らの不利益においてその約束を信じることを合理的に期待するような約束であること。3.当該約束の影響で、実際にそれを信頼した、約束された者の法的地位が変動したこと。4.その約束を強制することによって不正義が回避できること。などである。

これらの要素は、それぞれ様々に分解することができる。それは私が今後の記事で行おうとしていることでもある。しかし今は、全体像を眺めるに止めよう。

(約束による)禁反言の原則の本質は、契約法の用語である「信頼Reliance」の概念に基礎を置いている。ここでいう信頼とは、約束によって生じた法的地位の変動を意味する。つまり、約束の不履行がなければ生じなかったであろう出費や損失を意味する。この用語の意味するところを理解するために、トーナメントオーガナイザ(TO)が大きなリミテッドのトーナメントを開催する前に必要とされる投資について考えてみよう。彼らはプレイヤーが剥くための、あるいは賞品とするための充分な量のパックを用意しなくてはならない。そのために彼らは余分に注文をする。また、デッキ登録用紙を印刷し、スリップを印刷するための紙も用意しなくてはならない。それから、他にも色々と準備をする必要がある。さて、ではここで彼らがトーナメントのために予約していた会場が直前に突如として一方的に予約をキャンセルしたとしよう。TOは会場を予約する契約を信頼して何千ドルもかけて準備をしてきたこととなる。そうするとTOは信頼利益Reliance damagesを求めて会場を契約不履行で訴えることができる。これは、会場が予定通りに借りられていたら生じたであろうことが合理的に期待できる利益を指す履行利益Expectation damagesと対比される。

(約束による)禁反言の主張に際して立証しなければならないことは上記ととても似ている。違いといえば、約束は契約の一部ではないということだ。TOがトーナメントの6ヶ月前に会場と連絡したとしてみよう。しばらく先のことなので会場の予約は出来ないが、しかし近づいたなら部屋をとるので準備を進めて構わない、と伝えられたTOがそれを信頼して何千ドルもかけて準備をしたとする。そして再び会場に連絡を取った時、もう全て予約が埋まっており、部屋を用意することは出来ないと言われた。この場合、契約は成立しておらず、ただ後々の契約のために部屋を準備しておくという約束があったに過ぎない。しかし、会場がわはその提案によってTOがそれを当然信頼するであろうことを合理的に予測すべきであったと言える。よって、TOは会場に対しその約束を信頼して支払った額について、契約を結んではいないという会場側の主張を禁じて賠償を求めることができる。

再録禁止リストに基づく訴えの理屈として、あなたの投資価値を保護するためにそれらのカードを再録しないというWizardsの約束を信じてそれらを手に入れるために法外な価格を支払うことになったと主張することとなるだろう。また、Wizardsはあなたがその約束を信頼することを合理的に期待していたこと、そのせいで法外な支払いをするよう差し向けられたことも証明する必要がある。この立論には重大な欠点があるのだが、それについては将来の記事で掘り下げるとしよう。

損害の価額については、あなたの支払った価格と再録後の公正な市場における価格との差分ということとなる。重要なこととして、履行利益の補填を求めることはできない。なぜなら、これは信頼に基礎をおいたものであり、(約束による)禁反言の原則は再録される前の価格で売り抜いた時の利益までも保護するものではないからである。つまり、もしあなたがリバイズドの《Underground Sea》を300ドルで買い、それを800ドルで売ろうとしており、しかし再録によって100ドルまで下落したとする。ここでは再録禁止リストを信頼したことによって生じた200ドルの差額について賠償を求めることはできるが、再録しなければ生じたであろう500ドルの利益についての賠償を求めることはできない。

不正義についての要素は、契約不履行と(約束による)禁反言の原則違反において大きな差が生まれるところである。上述の通り、(約束による)禁反言の原則はエクイティ上の主張であり、契約違反のような「法的な」主張ではない。エクイティ上の主張は法的な主張と比べて全く異なる裁判所の一連の動きを引き起こす。このことがWizardsを訴えた際に何を引き起こすかという問題には後ほど向かうとして、今もっとも理解すべき重要なことは、エクイティ上の救済が「それぞれの当事者の持つ絶対的な権利の問題ではなく、裁判所の裁量に依存したものであり、その事件における全ての状況を考慮に入れた上に成り立つものである」ことである。言い換えるならば、もしあなたがWizardsの禁反言違反の要件を全て証明したとしても、なお裁判所はあなたに救済を与えるか否かを決定する裁量を有しているということである。結論として、これは再録禁止リストが裁判所によって強制力を与えられるべき約束に当たるか否かという政策決定の問題となるわけである。

さて、今日のところはこれぐらいにしておこう。この記事が(約束による)禁反言とは実際どういったものであるのかについて基本的なところを理解する助けとなることを願う。次回の記事では信頼の要素やどうしてWizardsを訴えようとしてもその要素を証明することがこんなんであるのかについて考えてみようと思う。もし何か意見や感想があるなら、ツイッターアカウント@theboozecubeまでよろしく。それでは、また次回!


訳註[1]:アメリカの法律は州によって大きく異なる。
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誤訳とか用語の間違いとか質問とか何かあったらコメントください。適宜修正したりします。
8/15 期待利益→履行利益に修正。防御→抗弁に修正。また一部の文言について意味の通りやすいように修正。

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